BackgroundFundamental researches
(左)Echo法とASEM法との比較.(右)ラット大腿骨のEcho像とASEM像.
私たちは,超音波照射によって生体組織や材料に電気や磁気が生じることを発見しました.この超音波により誘起される電磁信号(音響誘起電磁信号:ASEM信号)をセンシングする技術を事業化します.ASEM法は,東京農工大学 生嶋研究室の基礎研究成果をベースとしています.
物質に力を加え,その物質が歪むことにより,電気が発生することがあります.この現象は圧電効果と言われ,水晶や一部のセラミックスにて大きな圧電効果が見出され,携帯スピーカー,ソナーなど圧電素子として広く利用されています.私たちは,生きている生体組織においてもこの圧電効果が生じることを発見しました.超音波(音圧)により生体組織が歪むと,圧電効果により生体内で電気が発生します.体外に設置した受信アンテナにより,この生体圧電気を非侵襲に検出・画像化することに成功しています.
圧電効果は,元来,無機の単結晶により定義された物性です.圧電効果の特性は,結晶内の原子配列の秩序・対称性によって決定付けられます.生体内においても,コラーゲン線維組織など,分子配列の秩序性(結晶性・配向性)によって圧電効果は決定付けられます.このことは,生体圧電気の測定を通して,線維の配向性やコラーゲンの蓄積など,病理組織学的な性状評価が可能であることを意味しています.
超音波画像診断装置は,外来診察室や在宅におけるベッドサイドで迅速な検査が可能であることから医療の質と患者のQOLに資するものとして需要が増えています.『視診』と『エコー検査による内部形状観察』に加え,ASEM法による病理評価にちかい『第三の目』が導入されれば,開業医は精確な診断が可能となり,より迅速な治療方針が立てられます.ASEM機能が組み込まれた超音波画像診断装置は,通常のエコー検査に加えて,運動器官(腱・靭帯,骨,筋等)の“質”の評価や慢性疾患における臓器線維化診断などの可能性が見込まれています.
ref.) Progress Review, "Acoustically induced electric and magnetic polarizations and their sensing applications", Jpn. J. Appl. Phys. 62, SJ0802 (2023)
非侵襲生体センシングBiomedical sensing
骨,腱,靭帯,大動脈壁,大動脈弁などの線維状生体組織において,超音波の音圧によって電気分極(ASEM信号)が生じます.私たちの技術は,この分極の大きさと向きから,コラーゲンやエラスチンの結晶性・配向性を画像化します.特に,運動器官の質(結晶性)を評価し,骨折・腱断裂の治癒評価や運動効果の可視化/定量化を目指します.
エコー像(白黒表示)に重畳される腱の圧電画像(緑表示).
ref.) Nature誌 Research Highlights 「生体圧電気:生体軟組織は応力下で電気をつくる」 米国物理学会ニュースサイト: Soft Biological Tissues Can Be Piezoelectric.
体内たんぱく質の約30%を占めるコラーゲンは,運動器官をはじめ,臓器や血管等,私たちの体を形作る役割を担っています.要介護・要支援状態に至る主要因の一つが骨折・転倒や関節疾患等の「運動器官における障害」です.世界的な高齢化の流れにおいて,自分の意志で自分の運動機能を維持することは自立した生活を送るうえで極めて大切です.また,生産年齢層においても,骨折・腱断裂による早期社会復帰は,個人と社会の両面において経済的価値をもたらします.本事業は,診断・治療判断という医療行為のみならず,リハビリテーションや普段の健康管理をサポートする展開を目指しています.本事業により,各自が自身の健康状態を維持管理し,適切な運動を楽しみながらいきいきとした暮らしを営む社会を実現したいと考えています.
超音波による磁気センシングと非破壊検査Industrial sensing
(左)オーステナイト系ステンレスの応力による脆化.(右)溶接試験体における残留応力分布の可視化.
鉄鋼などの磁性をもつ物質では,超音波の音圧によって磁気分極(ASEM信号)が生じます.この分極の大きさと向きは,超音波照射部における磁区構造と磁化の向きを反映します.
ASEM法は,超音波による磁気イメージングや局所磁気ヒステリシス測定を可能とします.
この超音波による磁気センシングは,欠陥,腐食,脆化,残留応力など,鉄鋼等の非破壊検査への活用が見込まれています.